クロボー/クロス宿
2017/12/14(Thu)
(前回サルバ)
『王国ホテル』にて
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クロスで城を観光していたら、クロードのせいでちょっとした騒動が起きた。
王子と同じ顔だからだなんて、協力できるはずもない。
それでも笑いごとで済んでよかった、と全員それなりに疲れてホテルに泊まる。
ただほんの少し、蝋燭の消えた暗い部屋、遠い天井をぼんやり見上げ、クロードの脳で囁く妙な心。
もしも頼まれるまま王子のふりをしてやれば、少しでもエクスペルに留まる理由になったのだろうか。
いいや、もちろん当然、協力できるわけじゃない。他の誰かになるつもりはない。
クロードとして生きていたい。
ほんの少しは、ほぼ一晩。朝の音と光にいっそのこと目をさまし、隣のベッドで熟睡するボーマンを見る。
寝相が悪いわけではないが、髪が乱れているのはいつもながら動揺してしまう。なんでもないとはなかなか思えない。
そして、こんなふうに朝、隣にいてくれるのは残りたった数回なのだと、思い起こさせる。
そして、腹も減る。
しんみりした気持ちであろうと容赦なく、昨晩の飯を逃した腹はさっそく抗議してくるものだ。
レストラン・フォルンの朝限定販売、アーリア小麦パンに目移りしながらの大量購入。
他のみなの部屋にも届けてきたら、最後はボーマンとの二人分。遠慮はなかったが、二人分にしては多いかもしれない。
ハーブティかコーヒーか、今朝のボーマンはどちらの気分だろう。
ハーブの新ブレンドをしだす調合気分な日もあるようだが、今朝はしない気がする。
当たりのときは美味しい。いかんせん配合レシピが残らない気まぐれ投下のため、その場限りなのは残念だ。
自分用にコーヒーを淹れ、焼きたてパンのカリカリした端っこをかじりながら、ボーマンの寝顔を眺める。
そのうち朝食の芳しさのせいか、ボーマンのまぶたが渋そうに、まどろみから抜け出しつつあった。
ふあ、と小さなあくび。それから、大きなあくび。のびやかな。
シャツの胸元を軽く掻きながら、けだるげに身を起こす。
この一瞬一瞬を、繰り返せないなら、どこかに収めておけたらよかったのに。
「いいにおい、……うまそー」
舌も大して回らないまま、眠たげな瞳はパンに目線を流す。お腹が鳴る音。
「おはようございます。コーヒー淹れますか?」
「おーう。おはよ」
シャツとニットを着て、ちゃっちゃかと髪を結ぶ。そのあと軽い柔軟してから、洗い場に行くだろう。
「昨日は大変だったよなあ。ははは、クロードが王子になる、ってのも俺は面白そうかと思ったがな」
「そういえばハーブ入りのパン、ボーマンさん好きかなーと思って買ってみましたよ」
「おう、すきすき」
好きなんて言葉を安売りしないでほしい。注がれるコーヒーの黒い水面が跳ねる。
丁度良い頃合いに、顔を濡らしたままのボーマンが肩越しに、覗きこんできた。
「今日はやたら、いたれりつくせりだな! いつもお前の方がグースカ寝てんじゃねぇか」
残り時間が惜しいからです。
「たまには僕だってしますよ、早起きしたら」
あなたとの朝が好きだからです。
No.2182|SO2関連|