没小説
2018/06/11(Mon)
去年10月のミツヒデくん誕生日に途中まで書いてたんだけど
あっこれ面白くならないなと直感したので、お前もボツにしてやる!となったもののサルベージです。
竹馬でいるのに、カナミツが自然な二人きりになるの難しくないですか???
ちなみに曜日に関しては2015年のカレンダーを考慮したような気がする。
『しまった。
ひやりとしたその一瞬の表情で分かったのだろう、ランゼの無言で冷ややかな目線がカナタの頬に刺さる。
「ありゃりゃーまたかよカナター」
コハルの呑気な笑い声が場を多少は和ませ、和ませているだろうか。
うっかり、としか言いようがない。忘れていたわけではない、数週間前までは覚えていた。
ランゼとコハルが二人で買い物に行った一昨日の土曜、ああそうかそういえば、と気付いていた。
土曜日のカナタは、二人からのプレゼントが事前にバレないようにの足止め役として、ミツヒデと映画館に追いやられていた。
カナタも、本人に欲しいものを聞いてさっさと買っておけばよかったのだが、そのあとは映画の話が盛り上がり……
……つまり、この月曜朝の教室に来るまで、すっかり忘れていた。
今日はミツヒデの誕生日。10月17日。
どおりで登校中に出会ったとき、ミツヒデが妙にそわそわしていたわけだ、と腑に落ちる。
プロトレクサから帰ってきて以降、二人きりになると彼は大体いつも奇妙にそわそわしていたが、今日は特別だった。
「あー……、中間テストとか学園祭の実行委員とかいろいろあったからな、仕方ねーよ。なっ」
当の本人であるミツヒデが、努めて明るくこちらを励ましてくるのが、なんとも逆にいたたまれない。
つい先月、ちょうど土曜だったこともあり盛大にカナタの誕生日を祝われ、来月はミツヒデのだね、と話していたのに。
「すまないミツヒデ。すぐに何か用意する」
「いやいやいや、月末は11人で集まる約束だったろ? そのときにでも祝ってくれれば、ほんっと、俺は充分だからさ!」
ひとまずほっとしたいところだが、礼儀を重んじるランゼの視線も、ごもっとも。
第一、それで充分でないことは、垂れた眉で一目瞭然。
「な、なんだったら一昨日の映画がプレゼントでも、俺としてはスゲー楽しかったし……」
小声で何やらぼそぼそ言うが、ただ普通に遊びに行ったのがプレゼントになるはずがない。どんな理屈だ。
「えー? なになにミツヒデもうなんかもらってたのー? 映画観に行っただけじゃなかったの?」
「もらってねーけど、なんつーか!」
「ミツヒデくん、それは誕生日のプレゼントにならないわよ」
カナタは顎に手を添え、早急に思考を巡らせる。
ランゼへの贈り物も毎年悩むが、クリスマス直前の時期だけあり、店の販売戦略に随分と選択を助けられてきた。
去年はミツヒデに何を贈ったっけ。覚えていなかったが、去年も何かしでかしたような気もしていた。
自身は先月何を貰ったか。
「手作りケーキ……」
先月、ミツヒデはカナタのためにケーキを作ってくれた。
ムースとスポンジとチョコレートと三層に分かれタルトが敷かれ、味もデコレーションもやたらと手の込んだものだ。舌が肥えているカナタでさえ、人気店で買ったと誤解したほどに美味しい代物。その直前に食べたランゼ特製のハンバーグとも、甲乙つけがたいほどだった。
「えっ」
無理だ。
ケーキは作れない。
ケーキの他には、洒落たカービングベルトも。地球に帰って来てから少しくらい自分で服を選ぶようになったカナタには、ちょうど『あるとうれしい』ものだった。
何度か使ってみたが滑らかで心地が良く、母親もミツヒデのセンスを褒めていた。ミツヒデ自身もお揃いで同じものを買ったと見せてくれたから、よっぽど気に入ったのだろう。
ファッション小物、となるとミツヒデはバイトで得た金をつぎ込むようなお洒落好きだから、とカナタは躊躇してしまう。
カナタがくれるものならなんでもいいぜ、とも先月言っていたが、それは単純にミツヒデの優しさだと判断しておこう。ランゼの手前、それを都合よく受け入れてはいけない気がする。
……ひとまず、ケーキを買ってくるか。
「カナタがケーキ作ってくれるのか!?マジで!?」
えっ。
顔を上げると、きらきらと瞳を輝かせたミツヒデがカナタを見つめていた。頬を紅潮させ、心なしかふわふわした髪も踊りだしそうだ。
「カナタが作ったケーキ!」
驚くほどミツヒデは興奮し、彩り溢れた声と共に拳を握る。
「食べたい! 俺、カナタが作ったケーキが欲しい! やったぜ!」
「え……ちょっと待ってくれ。俺が作っても大して美味しくないぞ」
まずケーキどころか、料理だってろく作ったことがないのだから。
プロトレクサでも、全員……コハルにさえも料理当番があったが、カナタだけは毎日探索に出るからと免除されていた。
それでも数回、おにぎりの形をつくるくらいは手伝ったが、本当にその程度だ。正直そのおにぎりでさえ、正三角形にするのは意外と難しかった。
家でも料理をした試しはないし、調理実習でも小学生の時から、同じ班の女子たちが妙に張り切って腕を揮ってくれた。
「それ以前に、作り方も分からない」
「俺が教えるよ! なんでも聞いてくれ!」
どうやら既にミツヒデの心は、『カナタの手作りケーキ』で決まりきっているようだ。
「いーなー!あたしも食べた~い!」
「本当にそれでいいの? ミツヒデくんのケーキだったら充分プレゼントになるでしょうけれど」
「もちろん! ……って、カナタが本当に作ってもいいなら、だけどよ」
突然はっとしたミツヒデが、あからさまにしゅんと消沈しておそるおそる窺ってくる。
誕生日を忘れていたカナタとしては、ケーキ作りが未知数とはいえ、それ以外を提案しにくくなっている。
「分かったよ。ケーキだな」
「おう!」
ミツヒデはそんなにケーキが好きだったのか、好きこそものの上手なれというやつだな、そんなことを思ううちにチャイムが鳴り響いた。
材料を買って調理実習室を借りればいいかと思ったが、コハルを見た途端に家庭科教師から断固拒否をされてしまった。
恐ろしいことに高一の春のほんの僅かな期間、コハルは調理部所属だったらしい。何故その経験のうえで、自信満々で率先して許可を取りに行ったのかは、不可解なものだ。
「ひどくない?」
「そりゃーひどくねーだろ」
放課後、ミツヒデの家に向かって四人は電車に揺られていた。
昼に図書室からミツヒデが借りてきた菓子の本をめくり、どのケーキを作るかも決まっている。基本のパウンドケーキ。
このくらいの材料ならば、城玄家に揃っているらしい。
「そういえば二人からのプレゼントはなんだったの?」
「あ!そういやまだ開けてなかったな」
「帰ってから開けてみて」
「どーせ家に行くなら、そんときでもよかったねー」
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カナタはそこそこなんでも人並み以上にできるので、そこそこおいしいのが初心者でもできますし
ミツヒデくんにはカナタが作ってくれれば、それが世界一美味しい味です。
あっこれ面白くならないなと直感したので、お前もボツにしてやる!となったもののサルベージです。
竹馬でいるのに、カナミツが自然な二人きりになるの難しくないですか???
ちなみに曜日に関しては2015年のカレンダーを考慮したような気がする。
『しまった。
ひやりとしたその一瞬の表情で分かったのだろう、ランゼの無言で冷ややかな目線がカナタの頬に刺さる。
「ありゃりゃーまたかよカナター」
コハルの呑気な笑い声が場を多少は和ませ、和ませているだろうか。
うっかり、としか言いようがない。忘れていたわけではない、数週間前までは覚えていた。
ランゼとコハルが二人で買い物に行った一昨日の土曜、ああそうかそういえば、と気付いていた。
土曜日のカナタは、二人からのプレゼントが事前にバレないようにの足止め役として、ミツヒデと映画館に追いやられていた。
カナタも、本人に欲しいものを聞いてさっさと買っておけばよかったのだが、そのあとは映画の話が盛り上がり……
……つまり、この月曜朝の教室に来るまで、すっかり忘れていた。
今日はミツヒデの誕生日。10月17日。
どおりで登校中に出会ったとき、ミツヒデが妙にそわそわしていたわけだ、と腑に落ちる。
プロトレクサから帰ってきて以降、二人きりになると彼は大体いつも奇妙にそわそわしていたが、今日は特別だった。
「あー……、中間テストとか学園祭の実行委員とかいろいろあったからな、仕方ねーよ。なっ」
当の本人であるミツヒデが、努めて明るくこちらを励ましてくるのが、なんとも逆にいたたまれない。
つい先月、ちょうど土曜だったこともあり盛大にカナタの誕生日を祝われ、来月はミツヒデのだね、と話していたのに。
「すまないミツヒデ。すぐに何か用意する」
「いやいやいや、月末は11人で集まる約束だったろ? そのときにでも祝ってくれれば、ほんっと、俺は充分だからさ!」
ひとまずほっとしたいところだが、礼儀を重んじるランゼの視線も、ごもっとも。
第一、それで充分でないことは、垂れた眉で一目瞭然。
「な、なんだったら一昨日の映画がプレゼントでも、俺としてはスゲー楽しかったし……」
小声で何やらぼそぼそ言うが、ただ普通に遊びに行ったのがプレゼントになるはずがない。どんな理屈だ。
「えー? なになにミツヒデもうなんかもらってたのー? 映画観に行っただけじゃなかったの?」
「もらってねーけど、なんつーか!」
「ミツヒデくん、それは誕生日のプレゼントにならないわよ」
カナタは顎に手を添え、早急に思考を巡らせる。
ランゼへの贈り物も毎年悩むが、クリスマス直前の時期だけあり、店の販売戦略に随分と選択を助けられてきた。
去年はミツヒデに何を贈ったっけ。覚えていなかったが、去年も何かしでかしたような気もしていた。
自身は先月何を貰ったか。
「手作りケーキ……」
先月、ミツヒデはカナタのためにケーキを作ってくれた。
ムースとスポンジとチョコレートと三層に分かれタルトが敷かれ、味もデコレーションもやたらと手の込んだものだ。舌が肥えているカナタでさえ、人気店で買ったと誤解したほどに美味しい代物。その直前に食べたランゼ特製のハンバーグとも、甲乙つけがたいほどだった。
「えっ」
無理だ。
ケーキは作れない。
ケーキの他には、洒落たカービングベルトも。地球に帰って来てから少しくらい自分で服を選ぶようになったカナタには、ちょうど『あるとうれしい』ものだった。
何度か使ってみたが滑らかで心地が良く、母親もミツヒデのセンスを褒めていた。ミツヒデ自身もお揃いで同じものを買ったと見せてくれたから、よっぽど気に入ったのだろう。
ファッション小物、となるとミツヒデはバイトで得た金をつぎ込むようなお洒落好きだから、とカナタは躊躇してしまう。
カナタがくれるものならなんでもいいぜ、とも先月言っていたが、それは単純にミツヒデの優しさだと判断しておこう。ランゼの手前、それを都合よく受け入れてはいけない気がする。
……ひとまず、ケーキを買ってくるか。
「カナタがケーキ作ってくれるのか!?マジで!?」
えっ。
顔を上げると、きらきらと瞳を輝かせたミツヒデがカナタを見つめていた。頬を紅潮させ、心なしかふわふわした髪も踊りだしそうだ。
「カナタが作ったケーキ!」
驚くほどミツヒデは興奮し、彩り溢れた声と共に拳を握る。
「食べたい! 俺、カナタが作ったケーキが欲しい! やったぜ!」
「え……ちょっと待ってくれ。俺が作っても大して美味しくないぞ」
まずケーキどころか、料理だってろく作ったことがないのだから。
プロトレクサでも、全員……コハルにさえも料理当番があったが、カナタだけは毎日探索に出るからと免除されていた。
それでも数回、おにぎりの形をつくるくらいは手伝ったが、本当にその程度だ。正直そのおにぎりでさえ、正三角形にするのは意外と難しかった。
家でも料理をした試しはないし、調理実習でも小学生の時から、同じ班の女子たちが妙に張り切って腕を揮ってくれた。
「それ以前に、作り方も分からない」
「俺が教えるよ! なんでも聞いてくれ!」
どうやら既にミツヒデの心は、『カナタの手作りケーキ』で決まりきっているようだ。
「いーなー!あたしも食べた~い!」
「本当にそれでいいの? ミツヒデくんのケーキだったら充分プレゼントになるでしょうけれど」
「もちろん! ……って、カナタが本当に作ってもいいなら、だけどよ」
突然はっとしたミツヒデが、あからさまにしゅんと消沈しておそるおそる窺ってくる。
誕生日を忘れていたカナタとしては、ケーキ作りが未知数とはいえ、それ以外を提案しにくくなっている。
「分かったよ。ケーキだな」
「おう!」
ミツヒデはそんなにケーキが好きだったのか、好きこそものの上手なれというやつだな、そんなことを思ううちにチャイムが鳴り響いた。
材料を買って調理実習室を借りればいいかと思ったが、コハルを見た途端に家庭科教師から断固拒否をされてしまった。
恐ろしいことに高一の春のほんの僅かな期間、コハルは調理部所属だったらしい。何故その経験のうえで、自信満々で率先して許可を取りに行ったのかは、不可解なものだ。
「ひどくない?」
「そりゃーひどくねーだろ」
放課後、ミツヒデの家に向かって四人は電車に揺られていた。
昼に図書室からミツヒデが借りてきた菓子の本をめくり、どのケーキを作るかも決まっている。基本のパウンドケーキ。
このくらいの材料ならば、城玄家に揃っているらしい。
「そういえば二人からのプレゼントはなんだったの?」
「あ!そういやまだ開けてなかったな」
「帰ってから開けてみて」
「どーせ家に行くなら、そんときでもよかったねー」
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カナタはそこそこなんでも人並み以上にできるので、そこそこおいしいのが初心者でもできますし
ミツヒデくんにはカナタが作ってくれれば、それが世界一美味しい味です。
No.2285|イグアカ関連|