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::柚缶日記::

もしもし!!!もしもし!!聞こえますか!!!

アストラ小説8本目

2020/08/23(Sun)

健全5800字
ホテルでカナシャルの会話をウルガーが聞いてルカにからかわれる話
以前にブログでざらっと書いてたやつの盛り版
ウルガー視点一人称で、カナシャルは脇役です。軽いグレフィン確定要素。
これも他同様、一旦置き。左肩痛いの、iPadと仲良すぎる説ありますね??




朝の準備は心の準備

 思ってたよりは、安いな。オレは胸を撫で下ろし、店名を冠したコーヒーを注文タップした。
 大学の休みの朝、グレース警部との待ち合わせに指定されたレストラン。空港近くにあるそこにバイクで到着してみれば、洒落たアンティーク調の店舗だった。ロボではなく、人間の店員がこれまた洒落た制服を纏って、これまた身なりの良い客に対応している。全員が、さながらシャルスのように上品な笑顔を浮かべていやがる。絶対に、高いと思った。世界が違う、と思った。だがコーヒーは四倍の値段で済んだ。いや高いな。ネクタイの結び目に触れながら、フォーマルで良かったと思わされる。
 店舗内インフォを見ると、どうやらここはレストランにホテルがついた、オーベルジュと呼ばれる種類の店らしい。そして、平日日中は一般客にもレストランを開放しているようだ。
 今後ジャーナリストになって政治家や官僚を追うなら、こういう場所にも慣れとくか。は、いい機会じゃねーか。堂々と待ってやる。
 落ち着かない。早く到着しすぎた。オリジナルも無名だし高校時代にも顔出しは殆どしてねえから、誰もオレを気にするわけがないが、とにかくこの空気に溶け込む旧時代音楽も、艶やかな布地のソファの柔らかさも、全部が落ち着かねぇ。全員で行ったヴィクシアでもこれより何段も高級な部屋に通されたが、今考えてみるとルカがうるさく話しかけてきたお陰で、緊張がほぐれていたのかもしれないな。あのとき、大将も平気そうなのは意外だった。なんで慣れてんだ。
 ……グレースの話はなんだろうか。フィン・ツヴァイクについての大事な話がある、と言っていたが……兄貴の最期まで相棒としてエスポジト議員を追っていた、という件なら既に事細かく聞いて、納得している。『弟だからこそ伝えておきたいプライベートに踏み込んだ件』らしいが、兄貴の知らない一面を他の人間から聞くのは、悔しい、が、兄貴が生きていた証でもあるんだろうな。この店が、もしかして関係あるのかもしれねえし。
 そうでなければ恨むぞ、あの若さで警部ならキャリアのエリートなんだろうが、大学生が一人で待つにはキツイ。シャルスみたいな奴ならともかく。公園のベンチではし難い話なんだろうな……くそ、ずっと入口見てるが、来ねえな。デカい眼鏡はやっぱり苦手だ。
「キャバっ、それにしてもいきなりだから驚いたよ」
 なんだこの聞いたことがある声。
「でもよ、嬉しかっただろ?」
「そうなんだよ。ずるいなあ、そんなにボクの弱いところつけ込まないで」
 大将とシャルスだ。ちらりと見れば、柱の陰からほんのりと光が溢れていた。すぐに消えるが、またシャルスが顔面を発光させたんだろ。
 すぐ後ろの席に座った。こちらには気づいていない。植物に飾られた柱に阻まれているからな。
「お……」
 待てよ?
 こいつら、入口からではなく、二階から来たのか?
 階上はホテル施設だ。二人で? 旅先でもない、ムーサニッシュのホテルに?
「うーん、後ろに違和感する。まるでまだ、中にあるみたいだ」
「それは悪かった。大丈夫か?」
 妙に楽しそうなシャルスに謝る大将?
「平気さ。ボクは好きだよ、……カナタの、熱いの。求めてくれる気がして」
「バカ、誤解を招く言い方すんな!」
 ……いや、これはいつもの、シャルスの言い方が急に怪しくなる奴だ。つい絶句しちまうが、大将の言う通り、誤解を招いているだけだ。眉間のしわを親指でほぐす。何の話かはさっぱりわかんねえけど、オレの考えすぎだ。言い方が酷いだけで、たとえば文章としてみればなんの疑問もない、はずだ。熱いの? 中にある?
 クソ、盗み聞きする居心地も悪い、声をかけるか。
「たっぷりしといて、誤解なんてないだろ」
 ないわけないだろ。
「う。そりゃ、そうだけどよ」
 肯定すんのかよ。
「それに、激しくってお願いしたのはボクだから、カナタは気にしちゃだめ」
「だとしても、大事なお前に無茶させたのはオレだ」
 違う。違うぞ。これもいつもの、大将の言い方の熱さが熱愛に聞こえる奴だ。実際、誰にでも、オレにも言う。シャルスもだが、大将の言い方も相当なんだよ。揃うととんでもねえ。言っても聞かねえ。ふざけんな。
 間違いなく、まんまと誤解をさせられている。いい加減、話しかけた方がいい。
 けどよ、もし。万が一、だ。
 ありえねえけど、いや、なんとなく、ありそうじゃねえか。何度オレが高校時代、物陰で抱き合ったり至近距離でひそひそ話したり弁当を食わせてるこいつらを見かけてたと思ってんだ! 右腕ってそういうんじゃねえだろ。オレも映画か大将たちしか知らねえけどな!
 知りたくねえ……もしそうだとしてもオレは知りたくねえ! 浮気するなら他所でやれ! 第一、クソパパラッチどもが、この辺りにいねえとも限らねえのに油断しすぎだ二人とも。周囲に、カメラを向けてる奴は……いねえみたいだな。ボイスレコーダーはわからねえ。守ってやるとか言ってるが、詰めが甘いんだよ大将は。シャルスが気をつけろよ!
「お待たせいたしました」
 びっくりした。にこやかな店員が、小柄なコーヒーポットとカップをトレイに乗せて佇む。そうだ人間がテーブルへ運びにくるんだったな……こちらが黙っていても、優雅な仕草でテーブルに配置してくれる。
 それとほぼ同時に、背後の席の二人が立ち上がる気配がした。
「ごめんね、すっかり忘れてた」
「急げば間に合う!」
 言いながら慌ただしくオレの席を横切る。ちょうどコーヒーを注ぐ店員の陰になっていたようで、気づかれなかった。いや、無意識に通路から顔を逸らしていた。
「あーあ、カナタを一晩独り占めできて楽しかったなあ」
「またできるだろ」
「次はボクを…………」
 遠ざかり、聞こえなくなる。大将が赤面しながら、シャルスの口を右手で掴むように抑えたのだけは見えた。
 なんだったんだ。店員は既に去り、湯気の中の黒い液体にしばらく顔を映す。
 あとで聞けば、あっけらかんと大したことない話をするだろう。今は警部を待っているし、考えてる場合じゃねえな。考えるな。カップを傾けると、深い香りがくすぐる。コーヒーにこだわりはないが、これは美味いな。兄貴の真似をしてブラックで飲んできたが、今までで一番舌に合う気がする。
 男同士で、なのか? そんなことできんのか? 性別とか、あいつら関係ねえのか? まず大将は巨乳好みのはずだろうが。…………そうか、どっちも平気でも、好みでも、
「奇遇ですねえウルガーさん」
 …………ルカ?
 一瞬幻かと思ったが、実物だ。パーカー姿の普段通りカジュアルなままのルカが、いつの間にか横に立って首を傾げていた。
「相席いいっすか? いやー、こんなとこでまた知り合いに会うだなんて。あ、オイラはデザイナーさんと打ち合わせなんすよ。ついさっき一時間遅れるって電話がありまして。さて、なににしますかね。この店はケーキセットがオススメらしいんすけど、パフェも気になりますねえ」
 べらべらと喋って、オレが何か言う前にさっさと正面の席に座る。
 迷うような口ぶりだったくせに迷いもせず注文を終わらせたあと、テーブルに乗り出し、こちらの顔を必要以上の近くから覗き込んできた。なんだよ。じろじろと見られるから、顔を横に背ける。視線がうるせーんだよ。
「いやあ、とんでもないものを見たような顔してるから、どうしたんすかねーって」
 なんで分かるんだ。無表情にできてねえのか、ルカはすぐオレをからかう材料を見つけやがる。
「一人で考えると、変な誤解したままになっちゃうかもっすよー?」
 確かに、そういうことはある。
「オイラはそれはそれで面白いから、いいんすけど!」
 おもちゃにされてたまるか、と思ったが、どっちにしてもなりそうだ。顔を見なくても、ニヤニヤしてんだろ。いっそのこと、ルカの考えも聞いたほうがいいのかもしれねえな……
「……大将と、シャルスが……このホテルに泊まっていた、らしい」
「ふんふん」
 オレが喋りだすと、ルカの顔が離れて席に戻った。意外とその顔は、真剣に話を聞く気がありそうだ。オレは正面に向き直る。
「オレは偶然見かけたんだが、ふたりで、昨晩なにしてたんだ……って会話して……」
「説明ふわふわしてますね、歯がシフォンケーキになってんすか。具体的には? 単語だけでも覚えてないんすか?」
 会話をはっきり覚えられなかったのはジャーナリストの適正がないのか、ともよぎった。何を言っていたのか、必死に思い出す。
「や、……知らねえけど、大将が突然きて嬉しいだとか、熱いだとか激しくだとか……うるせー覚えてねえ」
 変な印象がする部分しか覚えていないせいで、この誤解が更に進行したらどうすんだ。何言ってんだオレは! そこだけだと完全にセクハラじゃねえか!
「あー。ひとついいっすか?」
 なんだよ、と視線だけで伝える。
「ウルガーさん、意外と口軽いんすねぇ! プライベートでしょそれ?」
 は、……ぐ、おまえ、うわ。
 呻き声を飲み込む。うるせー……ルカが言えって言うから、信用してんだろうが……プライベートはオレだって好奇心なんかで暴かねえよ……普通のジャーナリストはそんな俗なこと探らねえからな……うるせー……
「あとそれ、なににショック受けてんすか?」
 オレはショックなんか受けてねえ。
「カナタさんがアリエスさん以外とホテルにいたことじゃないっすよね? カナタさんが童貞卒業済みはとっくに分かり切ってるし…」
 恋愛の話は大将と全くしねえが、大将はアリエスと交際続けてるらしいな。オレはああいう『愛されて育った純粋な良い子』は話が通じなくて苦手だが、大将とは不思議と似合いのカップルだ。
「じゃあ、相手がシャルスさんだったから?」
 そこはシャルス以外の方が逆に驚くだろうが。
「それとも、……カナタさんが男相手でもイケるのに、相手が自分じゃなかったことっすか?」
「それだけは違う!」
 つい大声を出した。ハッとして、浮いた腰を座席に戻す。
「じゃ、なんなんすか」
「うるせー……」
 大将が、シャルスと裏でなんかしてようと、浮気してアリエスを悲しませようと、たぶんオレはそこまで気にしねえ。薄情かもしれねえが、そういうこともあるか、と納得しそうな自分がいる。大将がその場の勢いで何かしでかしそうなところがあるのは、良くも悪くも、だからな。
 確かに同性での……なんだ、行為は想像の範疇外だったが、それ前提でルカが話すのを聞いていると、当たり前のことな気もしてくる。平然と話すが、同性かどうかなんてのは肉体が両性のルカなら、繰り返し考えたことだろう。それが当たり前の世界の方が、ルカにもきっと住みやすい。
 だからといって、オレが大将とどうこうなんてのは、考えもしなかった。というか、かなり気色の悪い想像だ。なんだそれ。ねえな。
 ……だったら、何が引っかかるんだ?
「ほらほら『大好きなお兄ちゃんが知り合いとデートしてるの目撃した弟』みたいな顔してないで、なんでなのか教えてくださいよぉ〜」
 こいつ! こいつ! てめえ! ルカてめえ!!! 誰が弟だ!!!! うるせーんなわけ、……んなわけあるかチクショウ!!!!!!!! どんな顔だよ!
「おまえは! ルカこそ一切興味ないような顔しやがって!」
 胸倉を掴みそうになったが、穏やかな顔をした店員がケーキセットを携えて横に立っていた。伸びた腕を引っ込めたところに、シフォンケーキと紅茶一式を並べていく。
 オレのとき同様に一杯目を注いだ店員が立ち去ってから、ルカはカップを片手に嬉しそうに告げた。
「オイラもうそれのオチ知ってるんで」
 オチ?
「オイラがさっき見たときも、うわー昨晩はお楽しみでしたかって感じだったんで、朝帰りっすか〜? って聞いて。ほんとのとこ教えてもらいました」
 ルカのフットワークの軽さというか、懐にするりと入り込むのに嫌味のないテクニックは羨ましい。情報収集力が桁違いになりそうで、見習うべきなんだが、真似や模倣できるイメージはまったく起きねえ。オレはオレだ。コミュニケーションがやたら得意なやつがいるからって、オレに障害があるわけじゃねえ。得意なやつの技能が褒められとけ。
 だが、この口ぶり。はじめから分かっていたことだが、案の定、誤解だったな。
「なんだったんだよ」
 内心ほっとして、コーヒーを飲む。
「いやあ、本人たちに聞いたらどうっすか? オイラの口からはとても……」
「にやにやすんな、言えよ!!!」
 オレがからかわれるターンは終わってねえってわけかよ! 人から話を聞き出す訓練かますなら、やってやろうじゃねえか?!
「話が盛り上がってるところ、悪いね」
 気障な男の声。
「グレース警部だ! わー、ひさしぶりっすねえ! ああ、ウルガーさんが似合わない店にいるの、警部との待ち合わせだったんすか?」
 落ち着いた色の私服も、どこか気障だ。大人の男らしい香水の匂いはするが、背筋の良さや眼光の鋭さは、彼が警察関係の人間だと休日でも隠れていない。
 ……このトワレ、どこかで嗅いだな。シャルスじゃない、ザックでもない。どこだったか。もっと昔……、ん……?
「ウルガーと大事な話があってね。いいかな」
 少なくとも、フィンと関係のないルカに聞かせるには躊躇う話らしいな。もしエスポジトの関係であるなら、ちょうどよかった、と以前話を聞いたときみてえに苦笑するはず。
「すみません今ちょっと、ウルガーさんは『大好きお兄ちゃんが男と朝帰り』事件でショックしてるんで」
「妙なこと言うな! 別に、それでオレがどうこう言うわけねえだろ!」
「なんだ」
 グレースの、見下ろしながらこぼす、ぽつりとした一言が静かに響いた。心臓をざわつかせるような声に、頭の裏が妙にひやりとする。
「フィンとオレのことをとっくに知っていたなら、話が早いな」
 は?
「えー、なんすか? それ、オイラも聞いちゃっていい話ですかねえ? もしかしてお兄さんと、デキてたんすか!?」
 は? んなわけねえだろ。
「隠していたつもりだったが……いつ、どこで知ったんだ。まさかフィンから聞いていたのか?」
 今、ここで、としか言えねえ。
 は?
 大将たちのことは頭から吹っ飛び、グレースのやつが何を言っているのか、オレにはさっぱりわからなくなった。は?
 ちょっと待て、今の発言も何かの誤解じゃねえのか? ……そうだろ? ルカ、いいから無神経に聞け! 頼む、誤解が無事に解けたらパフェをおごってやってもいい!
「事件の調査以外で、フィンと初めて泊まったホテルがここだ。コーヒーをずいぶん気に入っていた」
 うるせー黙れ勘弁してくれ! 蕩々と語りだすな! オレに心の準備くらいさせろ!

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No.2656|彼方のアストラ関連

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